スクワットは、誰が発明した運動なのか
スクワットをしていると、ときどき不思議になります。
これは、いつから「スクワット」になったのか。
日本で昔からあった運動でいえば、膝屈伸なのか。相撲の四股なのか。あるいは、海外から入ってきた筋トレなのか。
先に結論を言うと、スクワットは「誰かが一度に発明した運動」というより、しゃがんで立つという古い身体動作が、体操、格闘技、身体鍛錬、バーベルトレーニングの中で別々に名前を得てきたもの と考えるほうが自然です。
だから起源を一つに決めようとすると、少し乱暴になります。
でも、たどると面白い系譜があります。
まず、スクワットは「しゃがむ」という意味から始まる
英語の squat は、もともと「しゃがむ」「うずくまる」という意味を持つ言葉です。
日本語でも、スクワットは一般に「膝の屈伸運動」と説明されます。つまり、言葉としての入口はかなり素朴です。
立って、しゃがんで、また立つ。
この動き自体は、人類の生活の中にずっとありました。床に座る。火のそばでかがむ。物を拾う。畑で作業する。椅子がない場所で休む。
それらはフィットネスではありませんが、動作としてはスクワットに近い。
だからスクワットの根っこは、ジムではなく生活動作にあります。
ただし、生活動作としてのしゃがみ込みと、筋トレ種目としてのスクワットは同じではありません。筋トレとしてのスクワットは、負荷、回数、フォーム、目的を意識して行うからです。
日本で近い言葉を探すなら「膝屈伸」
日本でスクワットに近い昔ながらの運動を探すなら、いちばん分かりやすいのは 膝屈伸 です。
学校の準備運動や体操でやった、膝を曲げ伸ばしする動き。あれは、現代の自重スクワットとかなり近い場所にあります。
ただ、膝屈伸は「筋トレ種目」というより、準備運動や柔軟、体を温める動きとして扱われることが多い。
一方でスクワットは、下半身を鍛える目的で、深さやフォームや回数を意識します。
同じ「しゃがんで立つ」でも、
- 膝屈伸: 体を動かす準備
- 自重スクワット: 下半身を鍛える運動
- バーベルスクワット: 重量を扱う筋力トレーニング
のように、目的が変わると運動の意味も変わります。
四股はスクワットなのか
では、四股はどうでしょう。
これはかなり近い。でも、同じものではありません。
四股は相撲の基本的な動作で、片脚を上げて、踏み下ろします。股関節を開き、片脚で体を支え、足を大きく踏む。現代フィットネスのスクワットより、相撲の身体づくりや所作に深く結びついた動きです。
スクワットが基本的に「両脚でしゃがんで立つ」運動だとすると、四股には
- 片脚で支える
- 股関節を大きく開く
- 足を踏み下ろす
- 相撲の型や鍛錬として行う
という別の要素があります。
だから、「四股は日本版スクワット」と言いたくなる気持ちは分かります。実際、下半身を鍛えるという意味では重なります。
でも正確に言うなら、四股はスクワットの別名ではありません。しゃがむ・踏む・支えるという近い身体要素を持つ、日本の相撲由来の鍛錬 と見るのがよさそうです。
ここを分けておくと、スクワットの歴史はかなり見通しがよくなります。
インド式スクワット、baithak という古い系譜
スクワットの起源を調べると、よく出てくるのがインドの baithak です。
日本では「ヒンドゥースクワット」「インド式スクワット」と呼ばれることもあります。インドのレスリング文化では、dand(腕立てに近い運動)と baithak(スクワットに近い運動)が身体鍛錬として行われてきました。
現代のジムで行うスクワットとはフォームも文脈も違いますが、自重で高回数、下半身と持久力を鍛える という意味では、かなり重要な系譜です。
ここで面白いのは、baithak が「きれいな筋トレ種目」というより、格闘技の身体をつくるための反復運動だったことです。
重いバーベルを担ぐ前に、人間はまず、自分の体重で何度もしゃがんで立っていました。
近代のスクワットは deep knee bend と呼ばれていた
英語圏の近代フィジカルカルチャーでは、現在のスクワットに近い運動が deep knee bend と呼ばれていました。
直訳すると「深い膝曲げ」です。かなりそのままです。
19世紀末から20世紀初頭にかけて、欧米では体操、健康法、器具を使った身体鍛錬が広がっていきます。その中で、膝を深く曲げる運動は、脚を鍛える基本動作として扱われました。
ただし、当時の deep knee bend は、今のパワーラックで行う高重量バーベルスクワットとは違います。
バーベルやラックが十分に整っていない時代には、現在のように重い重量を安全に担いでしゃがむことは簡単ではありません。だから最初は、自重や軽い器具、または別の担ぎ方による「深い膝曲げ」として発達していったと考えるほうが自然です。
バーベルスクワットは、器具と競技が育てた
今、多くの人が「スクワット」と聞いて思い浮かべるのは、肩にバーベルを担ぐバーベルスクワットかもしれません。
この形が大きな存在感を持つようになった背景には、バーベル、ラック、ウェイトトレーニング文化、そしてパワーリフティングの発展があります。
パワーリフティングでは、スクワット、ベンチプレス、デッドリフトの3種目で挙上重量を競います。ここでスクワットは、単なる体操ではなく、重量を扱う競技種目として明確な位置を持ちます。
つまり、スクワットは二つの顔を持っています。
- 生活動作や自重運動としてのスクワット
- 重量を扱う筋力種目としてのスクワット
同じ名前でも、入口が違う人にはまったく違う運動に見えるはずです。
「スクワットの起源」を一つに決めないほうが面白い
スクワットの歴史を一本の線にすると、
「昔、どこかでスクワットが発明され、それが世界に広まった」
と言いたくなります。
でも実際には、もっと枝分かれしています。
- 生活の中のしゃがむ動作
- 日本の膝屈伸
- 相撲の四股や蹲踞
- インドの baithak
- 欧米の deep knee bend
- バーベルスクワット
- パワーリフティングの競技種目
- 現代の自重トレーニング
それぞれは似ています。でも同じではありません。
ここが面白いところです。
スクワットは、単なる筋トレ種目というより、「人間がしゃがんで立つ」というあまりに基本的な動作が、いろいろな文化で鍛錬に変わっていったものです。
だから、四股を見てもスクワットを思い出すし、膝屈伸を見てもスクワットを思い出す。
でも、それぞれにはそれぞれの歴史と目的がある。
今のスクワットは、いちばん身近な古い運動かもしれない
スクワットは新しいフィットネス用語に見えます。
でも中身は、かなり古い動きです。
しゃがむ。立つ。支える。踏む。戻る。
人間の生活にも、武道にも、相撲にも、レスリングにも、近代体操にも、この動きの親戚がいます。
だからスクワットを1回やるとき、ただ太ももを鍛えているだけではないのかもしれません。
かなり古い身体動作を、現代の生活の中に小さく戻している。
そう考えると、10回のスクワットも少し違って見えます。
スクワットの回数や始め方を現実的に考えたい人は、スクワットは何回やればいい?初心者が無理なく続ける考え方 もどうぞ。
記録しながら続ける仕組みに興味があるなら、スクワットが続かない人に足りないのは、やる気より記録かもしれない につながります。
参考資料
- Britannica: Squat
- 日本相撲協会: 相撲基本動作
- 日本相撲協会: 相撲健康体操
- Kotobank: 四股
- Kotobank: スクワット
- Squat University: Squat History 101
- Joseph S. Alter: The Wrestler’s Body, University of California Press
- The Art of Manliness: The Hindu Squat
- International Powerlifting Federation: Disciplines